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その(5)機械的発想力をはたらかせる

 トラベル・サイモン両医師は、医学の世界にトリガーポイントという概念を紹介するという大きな功績を残した。またイラストを描いたバーバラ・カミングスさんのことも忘れ難い。こういった人たちがいなかったら、トリガーポイントは科学的な検討に値しないくずのように扱われただろう。

 

 ただし、彼らの治療法は自己治療を考えていない。基本的に診察室やリハビリ室で行われる方法だ。まずドクターが注射をして、PTがストレッチをする。あるいは冷却スプレーを皮膚に吹き付けてから特定のストレッチを行う。ところが私の経験からはストレッチから始めると、かえって症状が悪くなってしまう。そこで彼らは冷却スプレーを使って皮膚や筋の反射経路を一時的にブロックしてからストレッチを行ったわけだ。だが、自分でやるときに冷却スプレーを使うのは現実的でないし、筋肉のごく一部にトリガーポイントがあるだけなのに、筋肉全体をストレッチするのは効率が悪すぎる。

 

 こうして考えると、まずトリガーポイントに治療を集中するのがロジカルだ。こう考えたとき、トリガーポイントそのもののマッサージをするのは当然と思えた。そうすれば、わたしのような一般の人たちが自分で治療できるのだ。

 

 ピアノ調律の業界で最高の誉め言葉は「いいメカニック」である。どこが悪いのかを見つけて、それが治るまであきらめない。この業界で評判を勝ち取ったのは、一見複雑な問題でも、突き詰めればシンプルな解決策があることをみつけられたからだ。

 

 からだを機械とすれば、骨や筋肉はてこ、支点や力で説明できる。今まで培ってきた分析力が意外な分野で役立ちそうだ。

 

 まず筋肉の配置を調べ、その構造から筋の機能を予想してみた。一番の肝は各筋のトリガーポイントを正確に触れてマッサージできるテクニックだ。届きにくいところにも手が届くよう、手の使い方や姿勢を工夫する。

 

 この計画は強迫観念のようになり、朝から晩までマニュアルを首っ引きで調べ始めた。マクドナルドの駐車場でも自分の体を調べた。調べるたびになにか新しいトリガーポイントややり方が見つかり、家に帰ってからも「ここにあった!あそこにもあった!」と話しかけて迷惑がられた。3年が過ぎ、私は体中の120にわたる筋肉を触診してトリガーポイントを消し去ることができるようになった。(続く)6へ