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おてんとさんありがとう

 日頃からできるだけ太陽の光を浴びることを意識しています。いまケガのリハビリ中ですが、それでも体が空いたときは日なたに出ていきます。日光には体に良い効果がたくさんあるからです。

 

  1 ビタミンDと日光  

                   

 ビタミンDは皮膚で合成されるビタミンです。日光が皮膚にあたると皮膚細胞の中で作られ、血液の中に取り込まれた後肝臓に貯蔵されます。そして腎臓で活性化され体中のほとんどすべての細胞で効果を発揮します。じゅうぶんに光を浴びていればビタミンDを自分の体だけで必要量を作れるのですが、その目安は顔と両手に直接日光が当たった状態で20分くらいだと言われています。なんだ!20分くらいならと思うかもしれませんが、よ〜く考えてみると、意外と日光に当たっていない人も多いのではないでしょうか。

 

 20分の目安は肌にじかに日光が当たった場合なので、窓越しに外を眺めたり、ビルの日陰を歩いているときはあまりカウントされません。また帽子、手袋やパラソルを使えば効果は減弱し、化粧品でUV対策をすればさらに効果は薄れます。屋内の照明にはビタミンDの合成に必要な紫外線が含まれないので、朝晩の通勤以外にはまったく日光を浴びるチャンスがない方もいるはずです。

 

 私も病院勤めのときは日が出る前に車で出勤し、夜も遅くなってから帰宅して、休日は自宅でくたーとなっていました。だからほとんど日を浴びていませんでした。キノコやイワシ・サンマなどにビタミンDは含まれているので食事でも補えると言われていますが、当時の食事を考えると、おそらく足りていなかったと思います。日光を浴びず、食事でも補えない場合、ビタミンD欠乏の症状が出てきます。次のお話です。

 

2 ビタミンDのはたらき

 

 ビタミンDといえば、骨粗鬆症の治療薬として有名です。体の中にもとからある成分(正確には合成された類似物質)なので安全性は高いですが、効果はそこそこだと考えられています。しかし、日光浴と組み合わせると(患者さんに必ず説明しています)とてもよく効く薬だと感じています。

 

 ビタミンDは消化管からのカルシウム吸収を促進し、骨にカルシウムが吸着されて丈夫になるのを助けます。ここまでは有名なのですが、ビタミンDには免疫作用の調節、各種ガンの抑制作用、動脈硬化の抑制やうつ病の防止、受精卵の着床促進(すなわち不妊対策)など様々な働きがあることもわかっています。

 

 そのため欠乏症状としてはくる病、骨軟化症や骨粗しょう症のほか、自己免疫疾患、動脈硬化、高血圧、うつ病の発症ともつながりがあると考えられています。先日のテレビ番組では、若い女性で原因不明の全身の痛みが続き、最後にビタミンD欠乏症と診断されたケースが出ていました。出産後のお母さんが節々の痛みのためで困っているというときに骨粗鬆症が原因のことがあり、わたしも一例経験しています。この場合授乳により赤ちゃんに栄養を取られることが大きな理由になっているのでしょう。

 

3 まだある日光の効果

 

 人間をまったく光の当たらない環境で生活させると、1日が25時間のリズムになることが知られています。太古の地球は自転の速度が現在よりも遅く、そのころに人類の祖先は進化してきたので古い体のリズムが残っているのです。このリズムの狂いを調整をする仕組みがあり、光が体にあたると、脳の中にある松果体という内分泌腺からメラトニンというホルモンが放出されます。このホルモンのはたらきで睡眠や新陳代謝のリズムが調節されますから、不眠症気味の人は日中にできるだけ日を浴びることです。

 

 また、日光を浴びると脳内でセロトニンが放出されることもわかっています。幸せのホルモンと呼ばれるセロトニンですから、うつ気味の人も日光を浴びる時間を増やすことです。カントリーシンガーのジョン・デンバーが歌ったように、「背中に日が当たれば」わたしたちは幸せを感じるようにできているのです。

 

4 おてんとさんとのつきあい方

 

 このように日光を浴びることには良い意味が沢山あるので、みなさんにもできるだけ日光浴の機会を作るようおすすめしています。では浴びれば浴びるほどいいのかというとそうではありません。シミ・シワや皮膚ガンの発生といったリスクは紫外線と深い関係がありますから、皮膚が赤くなったり真っ黒になるほどの日焼けは必要ありません。また、日本では5月から8月の直射日光はやや強すぎるので、日焼け止めやパラソルもありだと思います。顔の日焼けを避けたい人は手足の露出を多めにすることで対応できます。

 

 ちょっと前の日本では日光を浴びない生活は不可能だったのに、交通手段や仕事・住環境の変化からほとんど日を浴びないでも暮らせる時代になりました。でも体のしくみは昔のままですから、じょうずに日光浴を楽しみましょう。ランチを持って日向ぼっこ、ぽかぽかと背中があたたかい。幸せを感じるひとときです。

 

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