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なんでもないからタイヘンなのだ!

 

 からだの不調を感じ始めたけれど、何が原因なのかさっぱりわからない。こんなときは不安になるものです。思い当たるフシがないので何かわるい病気になったのではと心配する人もいるでしょう。でもちょっと落ち着いて考えると、一見何もないように見えるところに理由が見つかるかもしれません。

 

1 やりすぎ君の場合

 

 やりすぎ君は真面目な性格で、締め切りに合わせて残業することもままあります。残業が続くと疲れを感じることもありますが、休日の家族サービスもできるだけやっています。忙しいけれど、まわりも同じくらい忙しいので、とくに気をとめていませんでした。

 

 あるとき同僚が突然退職し、忙しい時期に重なったため、仕事量が急に増えて連日の残業が続きました。持ち前の几帳面さで仕事をこなしていましたが、肩や背中が張って、頭痛を感じ、しだいに腕が痺れてきました。病院でははっきりしたことはわからず、症状はなかなかスッキリしません。いったいオレの体はどうなっているのだろう?と心配になってきました。

 

2 のんびりさんの場合

 

 のんびりさんは定年退職し、朝起きたらゆっくりとご飯を食べて新聞をじっくりと読み、ごろっと寝転がって過ごしていました。最近用事があって街中に出かけたときに、からだが重苦しく足が疲れやすいことに気がつきました。散歩をしてみると、ふらつきを感じ、腰が重だるくなります。何かの病気かな?と心配になってきました。

 

3 いっぱいさんの場合

 

 いっぱいさんは会社を経営しています。売り上げは着実に伸びていますが、安泰とは言えず、あちこちを駆け回る毎日です。家庭にじゅうぶんな時間を割けないので家族には申し訳なく思っています。ところが、田舎の父が急に病気で倒れてしまいました。一命は保てたものの、父の生活をどうするか、田舎は行くだけでもたいへん、妻にも負担をかけているし、会社は忙しい時期にさしかかっています。

 

 そんなある日、突然息苦しくなって目が回り、口のまわりや指先が痺れて救急車で病院に運ばれてしまいます。検査でおかしな点は見つからなかったものの、実は深刻な病気が隠れているでは?と心配です。

 

 さて、三人には何が起きたのでしょうか?

 

4 理由は「なんでもない毎日」にあり

 

 やりすぎ君は仕事を多く抱えていて、じゅうぶんな休養ができていません。現在ほとんどの仕事は、からだ全身を使うよりも一部分だけを繰り返し使う作業が大部分を占めています。とくに手を使う仕事、なかでもパソコン作業では1日何千回とキーを叩いたりクリックするので、腕の筋肉の疲労は著しい一方、くび・肩はじっと固めて動かさないためコリがひどくなります。これを毎日続けると累積疲労でくびから肩・腕にかけて痛みや痺れが生じてきます。本人にしてみれば「普通に働いているだけ」なのに困った症状が出てくるので、原因がわからないと考えてしまいがちです。

 

 反対にのんびりさんは急に体を動かさなくなったのが原因です。仕事に出かけることでそれなりに体を動かしていたのが、退職後のんびりとしている間に著しく体力・筋力が落ちてしまったのです。このパターンの相談はけっこう多いです。

 

 いっぱいさんの場合は、ストレスが問題です。ふだんからストレスレベルは上限ギリギリだったのに、親の病気というひと押しで心の救難信号が灯り、神経系のバランスを崩してしまったのです。

 

5 メリハリのある暮らしをしよう

 

 やりすぎ君のように、いつも同じ暮らしをしていても、疲労が積み重なれば体の故障が起きます。がんばるときはがんばるけれど、休養をしっかりとって、スポーツや遊びで体にちがう刺激を入れることが大切です。のんびりさんは楽をし過ぎたために、普通の暮らしをするにも困るくらい体力が低下してしまいました。すぐに疲れてあちこちが痛くなりますが、気を持ち直して体を使い始めればしだいに体力が戻り、痛みも軽くなってきます。

 

 いっぱいさんのようなストレスの問題は、現代人の生活にあまねく存在すると言っていいでしょう。ストレスはありすぎてもなさすぎても問題で、ちょうどいいレベルで負担がかかっているときに体・心にはりが生まれ、元気に暮らすことができます。ときには生活を見直して、もっとゆったりとした生活に変えていくことも必要です。

 

 外来にこういった相談で訪れる方は決して珍しくありません。薬・リハビリだけでの解決はむりなので、患者さんと相談しながら、生活の組み直しをお手伝いできればと考えています。