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その(4)新技術

 帰ってから本を注文した。上下2冊の「トリガーポイント・マニュアル」だ。医学書の値段にびっくり、買うか躊躇したが、自分に聞いてみることにした。それだけの価値があるか?肩がこの質問に答えてくれた。

 

 本が届いたときから、まったく新しい世界が目の前に広がり始めた。数百の詳細かつ美しいイラスト、筋にできるトリガーポイントの位置と予想できる痛みの部位がクリアに図示されていた。

 

 トリガーポイントの理論はかなり複雑ではあったが、基本的には筋肉の中のしこりとしてみつけることができ、その周囲の筋肉が持続的に緊張した状態になる。トリガーポイントは何もせずに痛むことがあれば、触らないとわからないこともある。痛みはトリガーポイントの場所からはなれて出ることが多い。つまるところ、痛みのかなり、いやほとんどはこの関連痛なのだ。どうやら私の肩の痛みは、この謎のような関連痛らしい。いままで一生懸命マッサージしたにもかかわらずなぜ効かなかったかと言えば、痛いところに問題があると考えていたからだ!

 

 肩の前に感じた痛みは、本当は後ろのほう、肩甲骨の背面に張り付いた棘下筋からきている。肩の奥に感じるうずくような痛みは、肋骨と肩甲骨の隙間に位置していて、わきの下の奥に触れることができる肩甲下筋からきているのだ。肩甲骨の内側、せなかに感じる痛みは、なんと首の付け根の前側にある前斜角筋からなのだ。

 

 わかったことは、肩回りのおよそ20個の筋にトリガーポイントがあり、それが痛みの原因だということだ。あのすばらしいマッサージ師が一見ごく普通のマッサージを行って治してくれた理由は、きちんとトリガーポイントを見つけてマッサージしてくれたからなのだ。たぶん、私だってできるかもしれない。このことは私の技術者魂に火をともした。あの複雑なグランドピアノを直せるのだったら、トリガーポイントだって治せるはずだ!

 

 痛みとこの洞察を得たために、私は昼夜を問わず本を研究していった。懸命にやると、自分の手を使った治療で、一つづつトリガーポイントを消していけることがわかった。本を読みながら1か月マッサージを続けると、肩の痛みがなくなった…私の痛みがなくなった!びっくりした!痛みがなくなっている!腕をあげられる。夜もぐっすりと眠れる。ほんとうに効いたのだ!

 

 もともと楽天的な性分なので、少し考えを広げてみた。これだけ効果があるなら、手が届く範囲のトリガーポイントなら何でも治せるんじゃないか?これは完ぺきなシステムだ。ある種の新技術で、多くの人を助けてあげられるかもしれないぞ!(続く)5へ