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心のわくを組みなおす

 長いこと患者さんを診ていると、からだの故障そのものより、その人の故障に対する受け止め方・感じ方が気になることがあります。打ち身やすり傷なら短期間で治りますが、年がいってからの故障は治りがゆっくりで、気長に付き合わなければならないことも多いです。同じものを見ていても、心に写る風景が同じとは限りません。よい風景が見えれば自ずとやる気もわいてきます。今回は考え方を扱います。

 

1 年齢と正直に向き合う

 

 若いときは体のことを気にしないし、少々の無理をしてもなんとかなるものですが、30・40代になるとどこかが痛くなったり不調を感じてくる人も多いようです。私自身も40代初めに体調を崩したときに、これを実感しました。でも、考えてみればいつまでも若い人はいないので、「今までこんなことはなかった」のは当たり前です。毎年毎年が人生で初めての経験なんですから。これを「あーあ私も年をとったんだ…」と考えて終わるより、「ここからはからだの手入れをしっかりしよう!」ととらえられれば、人生の大きな転機になります。むしろ早いうちに調子を崩したほうが、早いうちから体の手入れができるととらえましょう。

 

 ではよりご高齢の方はどうでしょうか?いくつになってもからだの手入れをすると、はっきりと効果があることがわかっています。年のせいと決めつけず、いくつになってもからだに気を配ることです。

 

2 運動できないと決めつけない

 

 手入れをするとは、運動、ストレッチのほか、食事・睡眠・アルコールやたばこの管理など生活全般を見直すことを指します。細かいことは省きますが、だいじなのは時間管理です。とくに体を動かす時間をどうやって捻出するかでしょう。「忙しくてそんな時間は取れない」とよく聞きますが、本当にまったく時間が取れないのか胸に手を当てて聞いてみましょう。

 

 少し早めに出て駅一個分歩くことはできないのでしょうか。会社内で階段を使うのは?休日に運動する時間はとれますか?早朝や帰宅後に10~20分あればストレッチや筋トレができます。お付き合いのパーティーや飲み会はほんとうに必要なのか、かわりにからだを動かしたほうがすっきりするのでは?と考えてみましょう。 子供が小さくて手がかかるから運動できない人は、夫婦で替わりばんこに30分ずつ運動する時間をとれないでしょうか?あるいは、家族で遠くの公園まで散歩するのはどうでしょうか。

 

 お酒や甘いものでストレス解消するのもありですが、それで体調を崩してしまったら問題です。運動のストレス解消効果はバツグンですから、ぜひ試してみましょう。誰にとってもふだんやらないことをやるには勇気が必要で、はじめの一歩はなかなか出ないものです。はじめの一歩、そして2週間はがんばってみます。そうすれば後は楽に続けていくことができるでしょう。 

 

3 自分ができることをみつける

 

 けがや病気にかかった直後は、それ以上のダメージをおこさないように、また治癒力が十分にはたらくように安静にすることが必要です。少し良くなってきたら、今度は体のこわばりをとり、血液のうっ滞やむくみの改善のためにからだを動かすことが必要です。安静にしているあいだに弱くなってしまった筋肉を鍛えたり、固くなった関節をほぐすために運動が大事なのですが、動かすと痛むのもよくあることです。治してもらおうと思って病院に来たはずなのに、かえって痛いことをする!と感じるかもしれませんが、からだをすみずみまで自由に楽に動かせるようになるため、やることはやるしかありません。

 

 病気、交通事故、労災事故やスポーツの事故など、故障するいきさつは様々です。事故の場合、心にわだかまりを抱える人がいますが、事情に関わらずリハビリでするべきことは同じです。縮まった筋肉をほぐし、固まった関節をやわらかくするために、患者さん自身が本気で参加してリハビリを乗り越えていくことが必要です。そうしないと時間がもったいないです。誰にとっても一生は一度限り、早く治る努力をおしまないことです。

 

4 フォーエバー・ヤング

 

 ボストンマラソンで優勝を含む幾多の好勝負を繰り広げた伝説のランナー、ジョニー・ケリーは23歳から84歳まで計61回ボストンマラソンを完走しました。「フォーエバー・ヤング」は彼をたたえて作られた銅像で、27歳と84歳のケリーが手をつなぎながらゴールを切る姿をかたどっています。からだは年老いても心は若いことを、これほどよく表したものはないでしょう。

 

 絶対的な体力は年齢とともに低下し、様々な故障や不調に見舞われるのはさけられません。「花も嵐も踏み越えて」と歌われたように、人生の試練にめげず毎日をきちんと生きて、振り返ればこんなところまで登ってきた、よくここまでがんばったと自分自身でほめられるような生き方をしたいものです。それがヤング・アット・ハート(心の若さ)であり、だれでもその気になりさえすれば得られるものだと思っています。