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足指の筋力を鍛えよう

(アーカイブ;2005年10月号より)

 

 まず、次のテストをやってみてください。

 

 両足をそろえてまっすぐ立ちます。両うでを胸の前で交差させて、右手で左肩、左手で右肩をつかみます。ここでどちらかの足を持ち上げて片足立ちになります。ここで、静かに目をつぶります。上げたほうの足がゆれるのはかまいませんが、立っている足の位置がずれたりかかとが浮いたりしてはダメ、肩をつかんだ手がはなれたりもダメ、目を開けてしまっもダメ、そこで終わりとします。

 

 さあ、何秒間続けられたでしょうか? 

 

 20歳代では1分以上、40代でも30秒はいってほしいそうです。これは、ある雑誌にのっていたバランスを見るテストで、さっそくわたしもトライしてみました。

 

 結果にガクゼンとしました。ぜんぜんできない!それなりに運動しているという自負もあったのですが、10秒くらいでふらふらしてしまうのです。

 

 若いスタッフにもやってもらったのですが、彼はみごとにクリアし、「このケンサ、ちょっとキビしすぎるんじゃないの?」とひそかに思っていたわたしは打ちひしがれたのでした。

 

 さて、気を取り直して、なにがいけなかったのか考えてみることにしました。そして、ひとつのことに気がつきました。

 

 足の指をぜんぜん使っていない!

 

 いや力が入っていないというべきか。指先は地面にくっついているものの、力が弱くて地面をしっかり支えてるという感じではないんですね。力が弱いから指先に力が入りにくい。ふつうに歩いていると気にならないけれど、さっきのテストみたいに足のうら全体を使わないといけなくなると、とたんに弱さ、バランスの悪さが目立つんです。

 

 みなさんはどうでしたでしょうか。おそらくふらふらして片足立ちを長く続けられなかった人も多いのではないでしょうか。

 

 人間の足は、ほんとうはもっと強かったのだと思います。赤ちゃんの足を観察してみるとわかります。あしの親指はしっかりと外に張り出していて、それも自由に動いています。ほかの4本の指も、大きく広がってものがつかめそうな感じです。赤ちゃんが立てるようになったとき、5本の指はしっかりひろがって、地面を押さえ込んだように見えます。力もしっかり入ってるんだなあとわかります。

 

 わたしも、みなさんも、赤ちゃんのときはこうやって歩いていたはずです。

 

 いつから、いまのような足になってしまったんだろう、と考えると、くつがやっぱり大きく影響しているようです。

 

 はだしで歩くと、地面のでこぼこはそのまま足に伝わってきます。足の指がふんばらないと足全体がぐらぐらしてまっすぐに歩くことができません。くつをはいていると、地面のでこぼこは靴底が吸収してくれますから、足には楽ですが、そのぶん指を動かす筋肉を使うチャンスが少なくなってしまいます。使わないものは弱くなる、というのが生き物のからだすべてに通用する法則です。靴をはき続ける生活がつづくと、足指の力が弱くなってしまうのです。

 

 足指の力が弱いということには2つの大きなデメリットがあります。

 

 ひとつは、からだ全体のバランス感覚が悪くなるということ。目をつぶっても立っていられるのは、足の裏やふくらはぎの筋肉から伝わってくる位置感覚と、耳の奥にある内耳にあるバランス検知器のはたらきがあるからです。この二つの感覚を通して、からだ中の関節や筋肉の働きを微調整して、もっとも無理のない姿勢をとることが可能になるのです。バランス感覚が悪くなると、姿勢に悪い影響がでたり、からだのあちこちに余計な力が入ることになり、肩こりや腰痛の原因にもなってきます。

 

 もうひとつは、足そのものにも影響がでてくるということ。足に関係する筋肉はひざから下にある筋肉のすべてです。ふくらはぎやすねの筋肉はすべてが足を動かすために働いています。足そのものの中にも小さいけれどだいじな筋肉がたくさんあって、下腿の大きな筋肉といっしょになって足を動かしています。この下腿~足の筋肉がすべてきちんとはたらいていることが足の健康にとってとてもだいじなのです。

 

 足にはからだ全体の重みがかかりますが、それをうまくささえつつ、足にも故障をおこさないようにするために、筋肉全体がばねのように働いて足全体の形を保つようになっています。足はけっしてかたい骨のかたまりではなくて、ばねじかけの精密機械と考えていただけたらと思います。足指の筋肉が弱くなるということはこの精密なばじかけにくるいがおきるということです。これがガイハンボシやへんぺい足の一因でもあるのです。

 

 だから、足の指をきたえることには意味があります。指先で物をつかむのもよし、はだしでつま先立ちするのもよしです。モカシンのような底の柔らかい靴をはくのもよしです。最近では、わざと靴底をやわらかくしたスニーカーも開発されています。

 

 さて、わたしもしばらく練習してみました。さっきのテストで1分は立てるようになりました。なんだか歩きやすくなった気もするこのごろです。