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歩き方で変わる?ひざ痛

 (アーカイブ;2005年8月号より)

 

 

「あらー、痛くなってきたぞ。やっぱりむりだったのかな?でも、もう少しがんばってみるかな。」

 

 とあるマラソン大会のできごとです。Aさんは、マラソン大会初出場です。この日のために、朝早起きしたり、仕事が終わってから家の近所を走って準備をしてきました。どきどきものでスタートしたあと、ここまで快調に走ってきました。自分のいつものペースよりちょっと速いかな?とも思ったのですが、まわりのペースに合わせて走ると意外と走れてしまうのです。それに、いっしょに走っている人たちを見ると、若い人も多いけれど、なかにはびっくりするくらい(失礼!)お年寄の人がいて、おまけに自分より速かったりするのですから、がんばらなくっちゃと思ってしまいます。

 

 30キロ付近まではやってきました。さあ、これからだと思ったとたん、ひざの痛みがでてきて、思うように足が進まなくなってきました。

 

「でも、ここまで来たんだから、もう少しがんばってみるか。」

 

 もうすこし、もうすこし。走るというよりも、歩くようなスピードです。でも、一歩一歩がかんじん、かならずゴールに近づいていくのですから。

 

 ひざの痛みはどうなったかって?Aさんもゴールしてから気づいたのですが、あれほど痛かった痛みがゴールするころにはなくなっていたのです。

 

 

 

 Bさんも同じような体験をしました。でも、Aさんとちがうのはひざの痛みがどんどん強くなって、残念ながら途中棄権をしてしまったことです。

 

 

 AさんとBさんはなにがちがったのでしょうか。練習量のちがい?根性のあるなし?いえいえ、そのちがいはAさんとBさんの走りかたをみるとわかります。

 

 一番のちがいはからだの上下の動きです。Aさんは頭の位置があまり変らないで走っていますが、Bさんの走り方をみると、からだ全体がはずむような走り方なので、あたまの位置が上下に動いているのがわかります。これがひざの動きにも負担を与えているのです。

 

 もうひとつは足の運びかたです。Bさんは、スピードを出すために、できるだけ大またで走って歩幅をかせごうとしています。そうするとどうしてもかかとから地面に着地することになり、足からの衝撃がもろにひざに伝わってきます。Aさんは歩幅を広げようとはしないで、足の回転数をあげてスピードを出そうとしていたので、地面には足のうら全体で着地しています。結果的に、ひざにかかる衝撃をやわらげるような走りかたをしていたのです。

 

 

 AさんもBさんもふだんの生活ではひざの痛みで困ることはありません。むしろ体力的にはBさんのほうが上回っているくらいです。しかし、マラソンのようにきわめて長い時間、歩いたり走ったりすると、身のこなしのわずかのちがいが、大きなちがいとなって出てくることがあります。

 

 うーん、そうかもしれないけれど、わたしはマラソンを走らないから、関係ない。ふだんからひざが痛いんだから、走るどころではない。そう思った方もいるかもしれませんが、おなじ考え方はどんな人にも応用可能なのです。

 

 一般の人では、どんなことに気をつければいいのでしょうか?

 

 だいじなのは、「ひざにかかる衝撃をやわらげること」です。階段を上り下りするときに、カンカンと音が響いているときは、足に強い衝撃がかかっています。こういうひとは、ためしにそっと音を立てないように上り下りしてみましょう。おしりやふくらはぎの筋肉に、いつもより力が入ってかえって疲れるように感じるかもしれませんが、ふだん筋肉を十分に使っていないためです。練習だと思って、静かな上り下りを心がけてみましょう。

 

 平べったいところを歩く場合にも、衝撃を受けやすい歩き方があります。どんな歩きかたかというと、足全体を棒のようにのばして歩くくせで、意外と多くみられます。自分自身にこのくせがあるかないかは、かんたんなテストでわかります。

 

 足をそろえたまま、まっすぐに立って、目をつぶってみてください。そのまま腰を折らずにからだを前に傾けていきます。倒れそうになったとき、おうっと!どちらかの足が前に出ましたね。このとき、ひざより先に足先が前に出ていたら、ふだんもひざを伸ばし気味で歩いているかもしれません。日ごろの歩き方でも、ひざをやわらかく使うことが大切です。やわらかく使っていると、とっさの場合にはひざ小僧から先に足が出ます。山道のようなでこぼこみちを歩くと、ひざを伸ばして歩く人はひざが痛くなったりしますが、やわらかく使っている人は疲れにくく、ひざを痛めにくいのです。

 

 歩き方のちがいなど、ふだんのくらしでは、たいしたことではないかもしれません。

 

 でも、5年後、10年後は?大きなちがいになるかもしれないのです。

 

(モデルウォークや競歩では膝を伸ばしたまま着地します。それでも膝にかかる衝撃を少なくできるのですが、やや特殊な歩き方と言えるでしょう。ここでは一般の歩き方に対するアドバイスだと思ってください。歩幅を大きくし過ぎるオーバーストライドが問題なのです。)