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その(7)マッサージスクール

 私たちのクラスは全部で49人、36人は女性、13人が男性だった。アメリカ各州や外国から生徒が集まり、年齢は17歳から60歳だった。すぐにわかったのは、この中で何らかの痛みを抱えていないのは私一人だけということだ。どうやらマッサージ学校に来る理由は、ほとんど慢性的な痛みに困っている人が何とかしようと思うことらしかった。

 

 はるばる遠いユタまで重い2冊のマニュアルを抱えてやってきて、自分の開発した自己マッサージ法を確立しようとしていた私だが、いざ着いてみると、だれも私の話を聴いてくれないのだった。ピアノ調律の世界では私の声は神の声で、恭しく傾聴されるのに慣れていたのに、ここではだれも話を聴いてくれない。同期の仲間が痛みに苦しみ、カイロにかかったり救急室に駆け込むのを黙ってみているしかなかった。

 

 先生たちも聞く耳を持たなかったが、唯一解剖の先生だけがちがった。非常にフランクな人で、教師の権威を気にかけることもなかった。休憩時間中、私が仲間と話すのを聞いていて、「じゃあ俺の体を診てくれよ」と話しかけてきた。以前より胸の片側に鋭い痛みが出て、今日の朝も痛みが出たそうだ。調べてもらったが心臓はだいじょうぶらしい。聞きながら彼の首筋を押してみると、しかめ面をして叫んだ。「その痛みだ!どうやったんだい?」予想通り、斜角筋が痛みの原因だった。どうやってマッサージをするかを教えた。後で聞いたら、痛みは消えて再発しなかったそうだ。

 

 わからなくなった。この人は看護師の資格を持つ有能な解剖学者なのに、トリガーポイントを聞いたこともない。トリガーポイントに無知な医師たちと同様、今の教育の産物なのだ。

 

 解剖の先生とのやりとりを見ていたクラスメイト達がやり方を見せてほしいと言ってきた。ある生徒には顔面の痛みをあごのマッサージで、ほかの生徒には足の痛みをとるためふくらはぎのマッサージ法を教えた。腰のさまざまな相談、実習で痛くなった腕や手の相談も受けた。

 

 クリニックの実習ではお決まりの腰痛の他、ありとあらゆる痛みの相談を受けた。来院する人はすでに医師、PT、カイロプラクターなどあちこちにかかっており、それでもミラクルを探している人ばかりであった。ヨガ、磁気、ダイエット、ハーブ、鍼などもあった。中には痛みに10年以上苦しんでいる人もいた。早く老け込み、身動きも取れず、失業の危機にあった。うつ状態も一般的だった。

 

 話を繰り返し聞いているうちに悲惨な気持ちになった。問題の本質はシンプルで、どうすればいいのかわかっているのだ。ほんとうはまずはじめからマッサージをやってみるべきであって、最後の手段になっているのはおかしい。担当した患者さんのほとんどがトリガーポイントが原因で、治療の結果は良い印象だった。ほんとうに役立つことをみつけたという私の確信はどんどん深まっていった。マッサージをするのが好きになった。だから必修時間の2倍も実習を行った。

 

 やってみて思ったのは、誰かにマッサージをしてあげることは自分のためにもなるということだ。資格を取るのが目的で入学したのだが、マッサージをしている自分が人にやさしく思いやりを持てるようになったのを自覚した。自分で痛みを経験していて、その治し方を親身になって人に教えることができる。そのことで自分自身を向上させることもできる。ここに来たことは無駄ではなかった。もっと早く来るべきだったのだ。(続く)