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からだと仕事

(アーカイブ;2003年12月号より)

 

 みなさんは、じぶんの仕事を気に入っているでしょうか。好きな仕事だけど、つかれる?それとも、好きだとはいえないけれど、からだは楽ですか?いまでも、一生同じ仕事を続ける人が多数派でしょうし、転職をくりかえしたとしても、同じ業種のあいだということが多いみたいですね。若い人は、アルバイトでいろんな仕事を経験する人もいますが、それにしたって、経験できる仕事の数には限度がありますし、世の中のすべての仕事を経験することは無理でしょう。

 

 みなさんが今の仕事についたり、これから新しい仕事につく場合にも、ひとりひとりにいろんな事情やきっかけがあるはずです。つまり、「縁」があったわけですね。仕事のおもしろさもつらさも、やってみなければわからないので、どの仕事が「いいしごと」か「悪いしごと」かは人それぞれでしょう。

 

 ただし、仕事がら、みなさんの仕事が「からだにいい」のか「悪い」のかがとても気になります。小さな診療所で、からだの相談をうかがっていると、その仕事なりのからだの使い方があって、からだが故障するときも、仕事の中身やからだの使い方を聞くことで、故障の原因がわかることが多いのです。

 

 うらをかえせば、その仕事をすることで無理のかかりやすいところをあらかじめ知っておいて、故障しないように手入れをおこたらなければ、からだをこわすことなく元気に暮らせるはずです。なかなか大きなテーマなので、気がついたことを、ちょこっとだけお話しましょう。

 

ホワイトカラーとブルーカラー 

 

 ホワイトカラーのほうが良くて、ブルーカラーのほうが悪い。これが、高度成長期からバブルのころまでの世間いっぱんの見かただといったらいいすぎでしょうか。いろんな考え方があると思いますが、からだの使い方からみると答えはかなり変わってきます。

 

 ホワイトカラー=フクザツな仕事=給料が高くて、比較的楽。ブルーカラー=タンジュンな仕事=給料が安いのにキツイ。もう、この図式は通用しません(とっくに知ってるよ!て言われそう)。  

 

 最近の事務的な仕事というのはほとんどがコンピューターを使う仕事です。コンピューターで仕事をする人をそばで見ていれば、ずっと座ったまま、たいていのひとは少し猫背ぎみになって腕を前に出しています。気持ちが集中していると、このかっこうのまま1,2時間過ごすこともまれではありません。

 

 からだには、こういうのが一番つらいんですよ。コンピューターは能率をアップさせるために使う機械であって、人間を楽にする機械ではない、と思いませんか。じっと座ったままモニターを見ながらひたすら手を動かす、これっておそろしいくらい単純作業だとわたしは思います(あくまで、からだから見てということで)。

 

 反対に、からだ全体を使ってする仕事(たとえば大工さん、お百姓さん、植木屋さんなど)は、からだの動きはとても複雑で、いろんな使い方をします。それに、自分のペースで仕事ができます。肉体労働なりのムリのかかり方はあり、当然気をつけなければいけないこともいっぱいありますが、上手にからだを使えばコンピューター相手の仕事よりもずっと健康的です。

 

 じっさい、たくさんの患者さんを診ていて、深刻なからだの故障をおこしたり、予感させる人は、どちらかというと事務職の人のほうが多いのです。もちろんどんな仕事でも、きちんとからだに気を配っていればいいのですが、心身ともにその余裕がなくなっている人が多くなった気がします(不景気のためでしょうか※)。

 

                     ※リーマンショックのころ

 

使うところと使わないところ

 

 どの仕事にも、独特のからだの使い方があり、たくさん使うところと、ほとんど使わないところがあります。たくさん使うところを使いすぎると、疲労のために故障が生じます。筋肉や腱が炎症をおこしたり、硬くこわばったりします。使わないところは、弱くなって痛みをおこしやすくなったり、ちぢまったりします。

 

 小さな故障のうちなら、休養や適度の運動、マッサージやストレッチで良くすることができます。ところが、小さな故障のあいだは、そのままがまんして仕事を続けてしまうことが多いのです。まだ痛みもしびれも強くなく、がまんしようとすればできるのです。

 

 からだはどんな場合でも何とか使えるようにしますから、短いあいだなら、そのまま仕事を続けることができますが、痛む場所に負担をかけないような使い方を、意識的にせよ無意識的にせよすることになります。「かばう」ということですね。

 

 こういった状態が長く続くと、こんどはかばっているために負担の増えたところが、しだいに故障してきます。これをさらにかばおうとして、他のところにもムリをかけてしまう。こうなってしまうと、故障が幾重にもかさなって、ひとすじなわでは行かなくなってしまうのです。

 

 こうなってからでは、困ります。患者さんにしても、お医者さんにしてもたいへんです。

 

 だから、ふだんから「じぶんのからだに耳を傾ける」ことが、とても大切なのです。