ブーマーウォーク 4.

競歩とは何か

 

  USATF(全米陸上競技協会)は競歩を含む陸上競技全般を統括する公的機関である。協会では競歩をrace walkingと表記しているが、わたしはracewalkingを使っている。世界的にどちらの表記も使われている。一文字を選んだ理由はふた文字だとただ速歩きをすればいいように思えるのに比べ、一文字にすると独自の競技であることがよりはっきりすると思うからだ。いずれにせよ、協会による競歩の定義は以下のごとくである。

 

二つの定義 

 

 協会競技規則232条によれば、

 

 競歩とは歩行の連続であり、競技者は必ず地面に接触しており、(人間の目で見る限り)接触が消失する瞬間があってはならない

 

 前方の足が接地する瞬間からからだが垂直位となる瞬間まで膝はまっすぐのままでなければならない

 

地面への接触の条文について

 

 第一の定義は、「人間の目で見る限り」という部分以外は自明のように思える。意味するところは、審判は少なくともどちらかの足は必ず地面に接触しているか確認しなければいけないということだ。すなわち後ろ足が離れる前にかならず前足が地面に接触していなければならないわけである。

 

 ところが実際には、熟練の選手ではときに各ストライドの瞬間、かすかに両足が離れる瞬間がある。一流選手のビデオをスロー再生、停止で観察するとわずかに両足が離れる瞬間を観察できるかもしれない。しかし通常の再生で見る限り、少なくとも一方の足がかならず地面に接地しているように見えるはずだ。

 

 わたし自身、第一の定義は全然気にならない。どっちかというと足が地面に着きすぎているくらいだ。おそらく練習して技術が向上しペースが十分に上がった時には、この定義を気にしなければならないだろう。

 

 けれども速くなれば話は別だ。わたしが2007年の全米シニア大会1500メートル競歩に出場したとき、はじめスタンドの妻は指を6本立てて6番目だと教えてくれた。ところがそのあとで5本指になった。二番目の選手が最終ラップで失格になったのだ。

図2-1 キャシー・メイフィールドの前足は、後ろ足が地面から離れる前にはっきりと接地している

 

図2-2 もしもロス・オブ・コンタクトが一瞬であり人間の目では確認できない場合、両足が地面から離れていても違反とはならない

 

 

膝をまっすぐの条文について

 

 この条文は特に初めての人には奇妙に聞こえると思うが、その言わんとすることは明確である。前足のかかとが地面に触れた瞬間から膝はまっすぐに伸びて(伸展)いなければならない。からだの真下に足が来るまでは膝はそのまま伸展していなければならない。そこを越えれば膝は曲がっても良い。

 

 これはひざをひたすらまっすぐにしたままの棒足で歩きなさいということではない。正しい競歩の歩形では、足が前に移動する間ひざは曲がっており、ふたたび接地する瞬間から伸展しているのだ。

 

 説明を聞いただけではなかなか理解が難しいだろう。テクニックの章を読むといくらか助けになるはずだが、実際に選手の動きを見るのが役立つ。ウェブサイトで調べて、地域の競歩クラブを見学すると良い。

 

 Http://www.boomerwalk.comでマックス・ウォーカーとキャシー・メイフィールドのビデオを見ることができる。NARF(北米競歩協会)のウェブサイトには棒人間によるテクニック紹介用アニメと驚異的なスピードで歩く選手のビデオを見ることができる。今の時点でひとめ見ておくことで大体のイメージをつかんだ方が良いかもしれない。後ほどさらに詳細なテクニックを扱ったあとには、あなた自身がビデオ内容をしっかりと分析できるようになっているはずだ。

 

 競歩初心者にとって、このUSATFの定義はいささかむずかしく思えるはずだ。わたし自身がそうで、とくに最高速で歩くときは実感する。練習中のスピードなら自然に滑らかに歩ける。さらにスピードを上げるとフォームは崩れ、歩きがガクガクしてくる。そこでアドバイス〜熟練の競歩選手なら皆同じことを言うはず〜まずはゆっくりか快適なペースで歩き、歩形を維持すること。テクニックが向上して快適に歩けるようになってからスピードを上げること。(続く)

 

 

 図2-3(左):前足は踵接地の際ひざがまっすぐでなければならない

 

図2-4(右):接地の瞬間から下肢がからだの直下にくるまでまっすぐであること