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ラン・フォー・ユア・ライフ(生きるために走ろう)

(アーカイブ;2006年1月号より)

 

ジョニー・ケリーの物語

 

「走るってことは、わしにとっちゃ生き方そのものなんだ。歯を磨くようなもんだな。」

 

 アメリカ東海岸、ケープコッドの町にひとりの男が奥さんといっしょに住んでいました。毎朝5時におきると、服を着がえ、テーブルに朝ごはん用の食器をならべると、外にでて走り出します。はじめはゆっくりと、体が温まってくるとペースをあげていきます。森の中を抜け、海沿いに走り、村の道をかけ抜けます。彼の名前はジョニー・ケリー。走っているとそうは見えませんが、じつは80をとうに超えています。

 

 今回は、マイ・ヒーローのお話です。この小柄なアメリカ人の男性は、日本ではほとんど知られていませんが、アメリカ国内ではちょっとした有名人です。若いころに2回、オリンピックのマラソンに出たことがありますが、メダルをもらったことはありません。彼が有名なのは、ボストンマラソンという、世界でもっとも古い市民マラソンに出場し続けたからです。それも、61回!!!

 

 1928年、20歳のときが一回目。2回目が24歳のときで、以後83歳まで毎年出場し続けました。優勝は2回(27歳、37歳)、2位は7回ですから一流ランナーだったのはまちがいありません。しかし、ケリーがすごいのは、80を超えても42.195キロを走ることができ、それを楽しんでいたということです。最高記録は2時間30分で、今の水準から見ればそれほどの記録とはいえませんが、70代前半まで4時間以内で完走、83歳の最後の記録は5時間42分、これはマラソンを走ったことのある人なら、どんなにすごいことかわかってもらえるはずです。

 

 ハート・ブレイク・ヒル(心臓破りの丘)の伝説も有名です。20マイル(32キロ)過ぎからだらだらと続く上り坂を、ターザン・ブラウン(ネイティヴアメリカンの名選手)と抜きつ抜かれつの死闘をくりひろげ、ほとんど気を失わんばかりの状態となったふたりは坂を上りきったものの歩くのもやっとの状態となり、それでもターザンは1位でゴール、ケリーは3人に抜かれて5位となります。この激闘を観戦した記者が、この坂を「ハートブレイクヒル」と名づけ、以降、ボストンマラソンといえばこの坂というくらい有名になりました。

 

 

 年齢が高くなってからは、ケリーを応援するためにアメリカ中のファンがボストンにやってきました。ケリーが走るのをみるとみんなが声援を送ります。ケリーは手を上げてそれに答えます。あまりの人気にボディーガードがついたくらいです。

 

 お金もちではありませんでした。足るを知る、といったところでしょうか。今とちがって、スポーツでお金がもうかるということはなかったようです。優勝しても、カメラとか電気製品をもらうぐらいですから、最近のプロスポーツ選手とはだいぶちがいますね。ケリー自身も、マラソンでお金をかせいでいたのではなくて、長い間工場づとめをして、暮らしていました。有名人なので、お金もうけの話もあったかもしれませんが、本人はあまりその気にならなかったようです。走っているほうがたのしいと、思っていたのでしょう。

 

 歌うことが好きで、絵を描くことも大好きでした。優勝トロフィーなどは部屋に入りきらないほどありましたが、小さな家で、奥さんと仲良く暮らしました。

 

 明るく、誰からも愛されたケリー。04年の10月に97歳で亡くなった彼の人生は、健康に、楽しく生きるという点でお手本となるものです。

 

 

 

 ケリーのように、80歳をこえても走り回れるのは特殊なことなのでしょうか?

 

 いろいろな研究結果から、だれでも同じように元気に活発に暮らすことはできると考えられています。キーワードは、有酸素運動(エアロビック・エクササイズ)。むずかしいことではありません。靴をはいて、少し大またで元気に歩いてみましょう。はじめは身を切る寒さにぶるぶるふるえていたのが、だんだんと温まってくるはずです。そう、これが有酸素運動の代表、ウォーキングです。毎日30分歩くのが目標、できるだけ毎日つづけることです。よゆうがあれば、少し早足で、もっとよゆうがあったら小走りしてみるのも手です。これがジョギングで、もっと速くなったらランニングです。

 

 それでは、ランニングを続けると、しない人よりも長生きができるのでしょうか?これには議論があって、今のところできるともできないともいえないようです。つまり、有酸素運動をつづけると「長生きできるかどうかはわからないけれど、すくなくとも生きている間は活発に、元気にすごすことができる」のはまちがいありません。

 

 寒い朝のランニングも、慣れれば快適なものにかわります。毎日を楽しく、生き生きと過ごすためにあなたも運動を始めてみませんか。