疲労の本質は脳の疲労であることがわかってきました。だからどんなことにもくじけない強靭さ・粘り強さ(タフネス)を養うには脳を鍛えることが必要です。今回のテーマです。
1 疲れるのは脳のせい
ちょっと動いただけで疲れてしまう。気力が続かなくなった。だからつい引っ込み思案になってしまう。こういった相談をよく受けます。貧血、糖尿病や慢性の内臓疾患があれば疲れやすくなりますが、多くの場合は原因がはっきりしないケースです。疲労の原因は長らく筋肉など肉体側にあると考えられてきましたが、最近の研究で疲労の本質は脳の機能であることがわかっています。体の微小なダメージが蓄積していくと、神経を介して脳に情報が伝わります。そして脳がこれ以上のからだのダメージを避けるためにからだにブレーキをかけようとします。これが私たちの感じる疲労の正体です。
このブレーキは本来必要なものですが、脳自体が弱ってくるとすぐにブレーキを踏むようになりがちです。からだは適度な刺激を受けることで元気になっていくものですが、十分な刺激を受けるより前にブレーキを踏んでしまうと元気になる機会を失ってしまうのです。
2 脳にも栄養(脂肪)が存在する
脳は血液で運ばれてくるブドウ糖を使って仕事をしています。ところが長時間の運動(マラソンなど)をするときには、脳内の脂肪(ミエリンという組織内にある)を分解して神経の栄養源にしていることがわかってきました。体の脂肪が長時間の運動に備えて蓄えられているのと同じく、脳の脂肪も脳を長時間使用できるように備えられているのです。
エネルギー源としてブドウ糖から脂肪への切り替えが起きるのは細く長く使用したときですので、筋肉なら短距離走や重量挙げよりサッカーやマラソン、脳ならばストレス少なめでのんびりと続けられる作業が脂肪燃焼に向いており、脳が疲れにくいと言えるでしょう。そして脳が疲れにくくなれば、結果的に体の持久力も高まっていきます。
3 からだで脳を鍛える
脳のトレーニングでだいじなのは、受け身のトレーニング(テレビを見る、ネットを見るなど)ではなく自発的なトレーニング(自分から働きかけてなにかをするもの)を多く取り入れることでしょう。そのほうがたくさんの脳内ネットワークを使用しますから効果が大きくなります。
からだを動かす作業はどんなことでも脳の大半を利用するので脳トレとして効率的です。たとえば冷蔵庫の中身を調べながら夕方の献立を組み立て、スーパーに行き食材を選定購入し、段取りを考えて調理し味付けを調整、配膳や片付けをスマートに行えば広範に脳の機能を使っています。日常生活全般(たとえば庭の手入れ・風呂そうじ)や趣味も同じで、自分なりの工夫や計画(いつ・どのように)を立てて行動すれば立派な脳トレです。もちろん運動全般でも同様、考えながらやることで立派な脳トレとなるでしょう。
4 心で脳を鍛える
・びくびく・ドキドキからはなれる
長いこと診療して思うのは、症状以上に不安が患者さんを苦しめているケースが多いことです。「これからどうなるのだろう?」「仕事や学校に影響が出るのでは?」「じつは悪い病気(がんそのほか)が隠れているのでは?」と考える人もいるでしょう。でも考えすぎは良くありません。それ自体がストレスになります。悪い病気でなければのんびりかまえましょう。後から見ればたいていのことはなんとかなっています。
・一意専心
たくさんの用事を抱えているときでも、結局は一つずつ片付ければいいだけです。マルチタスク(同時にいくつかのことをやる)はかっこよく見えますが、脳には負担です。複雑なことも小さく分解して少しずつやれば意外とスムーズにできるものです。
・休むときは休もう
これは忘れがちです。ほんとうに疲れたらちゃんと休みましょう。
・長嶋さんを見習おう
脳梗塞になった長嶋さんは周りがびっくりするくらいリハビリに励み、同病の人たちを励ましたそうです。リハビリをやり続けたことはウソをつきません。心の持久力を上げれば体の持久力も上がります。ふだんの暮らしでも長嶋さんを見習いたいですね。
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