歩けることが一番大事だと深く考えることもなく思っていましたが、「人生は一回きり」と考えれば、もう少し柔らかくとらえてもいい気がします。コロナのため外出が極端に減り、VR(バーチャルリアリティ)やネトフリ・ビデオゲームが楽しみの人も多い現在、もう一度歩くことの意義について考えてみました。
1 歩きは本性
仏教には輪廻転生という考え方があり、人はいろいろなものに生まれ変わると言われています。大空を飛ぶ鳥や海の中を泳ぐイルカやクジラに生まれ変わったら?あるいはアリやダニ、もっと微小なクマムシに生まれ変わったら?
なったらなったで、しっかり生き続けるはずです。人間と異なり深く考えることはできないのですから、むしろ悩まずに虫生を全うできるかもしれません。でも人間は考える生き物ですから、困ったり喜んだりを繰り返しながら生きていくのが自然なのでしょう。もう一つ、歩くことも人間の本性の一つだと思っています。歩くことで世界を探索し、必要なこと・楽しいことをみつける。生まれた瞬間から体に組み込まれている仕組みなのです。
2 コロナ下の経験から
2020年緊急事態宣言が出て以来、極端に外出せず、体を動かさない人が増えました。各種イベントやスポーツ大会は軒並み中止、国内海外問わず旅行はできなくなり、飲食店は休業や営業短縮を迫られ、各種学校は休校・オンライン学習への移行を迫られ、会社では通勤による感染機会を減少させるため在宅ワークへの移行が進みました。
以前はとても元気だったのに、久しぶりにお会いすると驚くほど弱っている人が増えました。ふしぶしの痛みを訴える方が増え、転倒による骨折も増えた印象があります。表情が乏しく、話が要領を得なくなり、精神的にもかなり弱った人が増えている印象です。
二本足で歩けるように何百万年もかけて進化して聞いた私たちのからだは、歩き回れるように作られています。というよりも、歩かざるを得ないように設計されています。
たとえば歩くことで腸がゆすられ、腸内細菌の働きが促進されて消化が進み、便通が促進します。調子がいいときの腸内細菌はその分泌物を使って脳と連絡を取り、脳の働きを活性化することもわかってきました。
そのほか骨も血管も各種の臓器も同じように脳との情報のやり取りをしており、歩くことですべてが元気になり、お互いに調整しあって体を最善の状態に持っていくことができるようになっているのです。ですから、体のメカニズム上歩くことがたいせつです。歩くことを人生の目標にする必要はないけれど、充実した毎日を送る下支えとして、やっぱり足腰は鍛えたほうがいいと思います。
3 楽しみをみつける
江戸東京博物館に行ったら東海道53次のすごろくをみつけました。ほかに五十三次の名所絵や旅行ガイド(弥次喜多ものが有名)もあり、庶民の間で歩く旅行が人気だったことがよくわかります。日本橋から京都まで約560キロ、男性なら2週間、女性でも3週間くらいで歩いたそうですから、毎日平均30-40キロは歩いた計算になります。この話をすると多くの人がむかしのことだから・・・という顔をするのですが、わたしのひいおじいさんは江戸時代の生まれだったのです。いま10-20代の人たちだって、ひい・ひい・ひいおじいさんまでさかのぼれば江戸時代の生まれなんですよ。長い歴史の中で見れば、つい最近までみんなこんな歩き旅をしていました。そしてとても楽しんでいたのです。
4 歩き始めのアドバイス
コロナ対策も変化していますから、今年は外に出ましょう。基本的な感染対策を忘れずに動き回ることは可能です。今のままでいると感染予防のメリットより運動不足のデメリットが上回る恐れがあります。 動き始めるに当たってのアドバイスを挙げてみます。
・これっぽっち?くらいから始める…想像以上に体力は落ちているのでごく軽めから始めましょう。
・すぐに息が上がる…心筋・呼吸筋も弱っていますから、あせらずに続けましょう。
・長い距離が歩けない…ちょっとずつ距離を伸ばしましょう。筋肉のミトコンドリア(充電池みたいなもの)はゆっくりと増えていきます。
・疲れる…週に1・2回疲れましょう。それはいいトレーニングです。
・からだが痛い…動けていれば少々痛くてもOKと考えましょう。痛みに過敏にならないこと。
・やる気がしない…何かをやっているつもりになるだけでトレーニング効果があるというおもしろい理論があります。頭の中でゴルフのスイングを練習するだけでもトレーニング効果があるそうです。これなら何でもやり放題。やりたいことを思い描こう。そのうちほんとうに体を動かすチャンスが巡ってきます。