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からだの危機を脱するには

 

 

 まだ若かったころ、あちこちの病院に転勤しました。大学の出張病院をぐるぐる回るのが当時のやり方でしたが、いいこともあれば?と思うこともあり、患者さんを長く診れないことが不満の一つでした。一転開業すると、定点観測で患者さんを長く診ることができます。赤ん坊だった子が大きくなって、大学生や社会人になり、さらにその子供を診ることだってあります。久しぶりに診ると、この子はうまくいってそうだなとか、ちょっと苦闘してるかな?とかいろいろなことを考えます。今回は長く診ている中で気づいたことをお話ししましょう。

 

1 からだはどんどん変わる

 

 年齢のちがいは大きいです。子どもの頃はどんなケガでも順調に治り、ほとんど跡を残さないことも珍しくありません。思春期から20代はじめは体力がどんどん増大する時期です。やったらやっただけのことが身に付きますから、公私ともに実り多い時期です。20代後半から中年期は体力的には守りの時期、油断をすると体力・気力が落ちてきます。「前はできたことなのに」「こんなことでケガ(病気)をするなんて」と思うのがこの時期です。でもメンテナンスをすればまだまだいける!と思うのもこの時期で、個人差が大きくなってきます。

 

 壮年期、自分やまわりの人たちも疲れを感じてくる時期。長く患者さんを診ていると、このあたりが体力面から見た人生の分岐点のようです。楽に流されるか、もういっちょう!とがんばってみるか。仕事・育児・家庭状況の先が見えてきて、何を張りにして生きていくかあらためて考える時期です。体は何よりの資本、ここで自分の体に手をかけることができるかが分かれ目と言えます。

 

 そして老年期。どんな人でも体力面の低下が避けられませんが、人生経験が深まった分、物事の多面的な見方ができるようになり、勝負や比べ合いを脱して、自分なりの楽しみを見つけられるはずです。長生きの時代、この時期の過ごし方については、私も患者さんから日々学んでいます。

 

2 心当たりがない≠原因がない

 

 まったく何かをした覚えがないのにどこかが痛くなったり、調子が悪くなったりするのはどうしてでしょうか。考えられることとしては①運動不足による廃用(筋の短縮・委縮・関節のこわばり・じん帯の柔軟性低下)②累積的効果(仕事や運動中の小さな無理が積み重なったもの)③じっとしていることに起因する筋の疲労・こり④自分にとっては記憶に残らないが、実際には体に負担になっていること(例;電車に遅れまいと急いで階段を上った・青信号が点滅したので急いで歩道を渡ったなど)が挙げられます。

 

 昨年来のコロナ禍による外出制限の影響からか、在宅ワークが増えたためなのか①②③が原因となったからだの不調が増えている印象があります。三密を避けつつも運動やストレッチを行い、体の調子を保ちましょう。在宅ワークの場合、朝夕の仮想通勤時間を作る(勝手に歩く・走る・自転車を使う)のも手です。

 

3 時間がかかるときががある

 

 わりかしシンプルな故障のようでいて、実際には治るのに時間がかかることがあります。骨折は1,2か月、肉離れは一か月くらい、捻挫は2~3週のような何となくみんなが抱いているイメージがあるのですが、実際には程度・年齢・体の具合(慢性疾患や疲労の影響)で治りがゆっくりになることが珍しくありません。お医者さんと患者さんで考え方に一番ギャップがあるのが治療期間のイメージでしょう。

 

 ただし、体はあきらめずにちょっとずつでも治っていくのです。半年過ぎても、もっと時間がかかっても、体の修復システムは働き続けます。骨折・手術の経験をした私も日々実感しているのですが、もうだめかと思ってもあきらめずに運動を続けていくとそれなりに改善しているのを感じます。粘り強さが大事だと思ってください。

 

4 危機を脱するには

 

 では体力面の危機を脱するにはどうすればよいのでしょうか?いくつかヒントをお話しします。

  • 努力はうそをつかない…筋トレやストレッチであれ、ウォーキングやいろいろなスポーツであれ、続けていけば必ず上手になります。進歩は停滞の後に来ます。ブレイクスルーは間近かもしれません。
  • 完ぺきを求めない…体の特性・年齢・体力差などがあって、自分の理想に届かなくても良しとしましょう。楽しむことが大事です。
  • 小分けにして考える…複雑な動きを全部一気に改善するのではなく、小さな一点を改善してみます。それを繰り返せば、ちりも積もって山となります。だからもっと上手になっていきますよ。
  • 人と比べない…自分が楽しむことが大切、みんなでワイワイやるのが好きな人も一人でのんびりやるのが好きな人もいます。運動は自分中心に考えましょう。
  • いきなり高い目標は立てない…近所の公園に行って来るだけでオーケーです。動いているうちに筋肉ホルモン(マイオカイン)が出て気分が軽く、足取りも軽くなります。はじめの一歩は軽い気持ちでやってみましょう。