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けがを振り返って

 私事ですが入院中にこれを書いています。ジョギング中に突然かかとに衝撃が走って歩けなくなり、骨折の診断で手術を受けたところです。治療として何をどんな理由でやるのかはわかっていますから、落ち着いていられると思ったら大間違い!するのとされるのでは全く違いますね。クリニックに来院された患者さんにはご迷惑をおかけします。入院中に思ったことを書いてみました。

 

1 なぜけがをしたのか

 

 3年ほど前から右のアキレス腱の痛みがあり、走ったり走れなかったりという時期が続いていました。最近少し良くなってきたのでハイキングに出かけたり、ウォーキングの距離を伸ばしたり、短い距離のジョギングを繰り返したりで、秋のマラソン大会に備えていたのですが・・・後悔先に立たずとなってしまいました。自分ではやりすぎとは思っていなかったのですが、やはり自分のことを客観的に見ることは難しかったのでしょう。

 

 反省すべき点は①年齢による影響を考えなかった。以前と同じことをしているのだから、それほどやり方を変えなくていいと漫然と考えていた②もう少し身体の状態をこまめにチェックすべきだった。自分には判断が甘くなったのかもしれません③どこかで「自分はだいじょうぶ」と思っていたふしがあります。

 

 こうやって一つづつ挙げてみると、私が患者さんにふだんお話していることばかりでまったく恥ずかしいかぎりです。さて、これからどうするかというと、あきらめずにリハビリを続けて来年にはウォーキングあたりから再デビューを狙いたいです。ちょっとサイクリングもやってみようかな!

 

2 はじめて手術を受けました

 

 整形外科医として人さまの身体にメスを入れ、麻酔のトレーニングも受けていたのに、やはりはじめての経験は不安でいっぱいでした。全身麻酔で患者さんが亡くなる確率は10万件に1件以下で、飛行機に乗って亡くなる確率より低いのは知っていましたが、いざ自分が受けるとなると(麻酔から覚めなかったらどうしよう?!)と心配になりました。浴衣のような青い上っぱりの下にオムツをつけさせられ、ガタゴト揺れるストレッチャーに身を横たえ、無影灯に照らされながら看護婦さんやドクターに上から覗かれます。マスクを被らされて深呼吸をするように言われ……気がついたら病室に戻るストレッチャーの上にいました。眠いねむい、何もする気がしない。病室に戻り2、3時間すると意識ははっきりしてきましたが、マスクをしている喉は乾くし、血圧計や心電図モニター、酸素分圧計、点滴台で寝返りもできません。ナースさんが来て必要なくなった装置を外してくれるまでの時間の長かったことと言ったら!

 

 今まで治療する側で冷静に患者さんに手術の説明をしたり、外来で手術を受けた患者さんの話を聞いていいましたが、自分が受けるのは全く別の経験だと言い切れます。医療をする側から見れば何気ない身振りやことば使いが患者さんに影響を与えることも実感できました。またやりたいとは思えませんが、ほんとうに貴重な体験でした。

 

3 疲労骨折のこと

 

 今回の骨折は実は疲労骨折です。前からちょっと痛かったけれど、走れるから走っていたのです。ちょっとつまずきかけて足を強めについただけで折れたのですが、疲労骨折とはこういうものです。先日実業団の駅伝大会で下腿の激痛で走れなくなり300メートルを膝をついて進みたすきをつないだ選手の話がニュースになりました。この選手もレースの直前までしっかり走れていたのに、本番のレースで骨折を起こしたのです。疲労骨折とはこんなものなのです。

 

 外来で診る患者さんの中にも疲労骨折を疑わせる症状の人は意外に多いです。明らかにスポーツのやり過ぎ(中高の部活生や私のように)のケース以外にも、一見まったく普通に暮らしているのに疲労骨折っぽい症状が出てくるケースがあります。普段やらない運動を始めた、職場が変わり長く歩くようになった、引っ越しして坂道の上下が増えたくらいでもなる人はなります。普段の生活スタイルが大きく変わった時、股関節〜足のどこかが痛くなってきたら疲労骨折の可能性があります。

 

4 疲労骨折の治療

 

 手術をするのは例外中の例外で、ほとんどは原因になった運動を休止すれば治ります。ですが仕事や住居を変えるわけにはいかないので、無理のかかる作業を減らしたり、衝撃の少ない履物を使い歩き方を工夫することも必要です。スポーツが原因の場合、患部に負担のかからないトレーニングをすることは可能です。そうやって体力を維持しながらつらい時期を乗り越えていくのです。今の私の課題がこれです。

 

 しかしながら治るのに時間がかかるのも事実です。軽くて1,2か月、長ければ半年以上かかります。その間、患者さんは(こんな調子で大丈夫なのかな?)(ほんとうに治るのかな)と不安でいっぱいなはずです。こんな時に「だいじょうぶだよ」と言ってあげられるように、もっと診察技術を上げていかなければいけないことを痛感しています。