仕事が忙しいときものんびりしたときもありますが、ぽっかり時間が空くといろいろ考えます。今回のお話です。
1 きちんとケアをしたらどれくらい体がもつのか?
患者さんたちにはセルフケアが大事だと伝えています。五年十年で考えればきちんとケアをしているか否かで体の状態はまったくちがってきますが、三十年四十年で見るとどうでしょうか?ハーバード大学の卒業生を対象にした調査では長生きの度合いや体の調子ではっきりしたちがいがあることがわかりました。でも私が気になるのは、「ストレッチを続けていれば体はいつまでもやわらかいのか?」とか「ランニングを続けていれば90歳になっても走り続けられるのか?」といったことなのです。
バレエのように柔軟性が必要なアーチスト・アスリートの方たちを見ていると、日ごろからストレッチをやる効果がはっきりとあるのだなと感じます。手入れを続けることで手足の関節はかなり柔らかさが保てますが、せぼね(脊椎)は年と共に硬くなる方が多いようです。それでも日常の生活動作には肩・ひざ・股関節の影響が大きいので、やはりストレッチは有効です。
ランニングの場合、海外では101歳でフルマラソンを完走した人がいます。マラソン大会に参加すると70歳以上の参加者が増えているのを実感します。たしかに記録は落ちてきますが、走ることを楽しむ気持ちがあれば意外と長く続けられるのではという気がしています。さすがに90代は?と思いますが。日に当たるのでビタミンD補給もばっちりです。
2 「お客様」より参加者になろう
患者さんに今後の見通しを伝えたとき、反応が大きく二つに分かれます。一つ目は「これから良くなるために何をしたらいいのですか?」、二つ目は「いつごろ治りますか?」と聞いてくる場合です。筋肉や関節の故障の回復期は、患者さん自身がからだを動かし硬いところをほぐし弱いところを強くしなければなりません。病院にたよりきりではだめです。だから二つ目の質問を聞くとだいじょうぶ?と思ってしまいます。
私事ですが5年前に足のけがをして以来あきらめずに動きストレッチを続けていると、毎日(あれ少しやわらかくなったな!)(ちょっと前より楽に動ける!)と感じます。まさに「けがは一瞬・リハビリは一生」ですね。長くかかっても良くなることがいっぱいありますから、あきらめずに続けることが大切です。自分のからだの責任者はあくまでも自分!積極的に体を動かし、整えましょう。
3 転び始めたら要注意
ちょっと前までとても元気だった人が「転んでしまった!」と受診することが多くなりました。ハイキングやトレランをしているとき転びそうで転ばないことはしょっちゅうですが、疲れて何でもないところで転ぶことが数回ありました。つま先が上がらないのに気がつかず小さな根っこや段差に足先がひっかかってしまうのです。転びやすい人は、つま先を地面でこするように歩くくせを直しましょう。つま先を上げようとせず、ひざを上げてください。腿のつけ根にある腸腰筋という大きい筋肉を動かすことを意識します。すると転びにくくなるし、足がひっかかっても次足がさっと出てリカバリーができるはずです。
まだ元気なうちに「手を前に出す」練習をしておきましょう。壁に向かって立ち、手を下ろしたままからだを前に傾けていきます。倒れそうになったらさっと手を挙げて壁につき体を支えます。慣れてきたら壁との距離を広げてやってみてください。これは反射神経の訓練です。転ぶ瞬間に手が出ずに上半身のけがをする方が多いので、ふだんからすぐに手が出るように訓練しましょう。
4 どんな場合も「治る力」がだいじ
医者になってからいろいろと経験して、こういう風に仕事をしたいと考えてきたのは①患者さんの治る力を利用する②無駄な検査はしない③薬・注射は必要最小限④しないですむ手術はしないの4点です。自分が患者さんだったらこうしてほしいと思うことなので、あたりまえのことばかりかもしれませんね。
それでも長く続けていると仕事のしかたに個性が出ているようです。患者さんによってですが、(もっと検査をしてほしい)(もっと薬を出してほしい)(注射をしてほしい)(手術をしてさっさと直してほしい)と言われることがあります。しかし①~④を守るためにそれなりにくふうがあり、努力もしています。とくに①はほんとうに大切だと思っています。だから食事やエクササイズのアドバイスをしたり、マッサージやストレッチを取り入れたり、日光浴を勧めたり、歩き方や身のこなしのアドバイスをしたり・・・地味だからがっかりする人がいるかもしれません。でも意外なくらい効果を発揮することも多いのです。
私が理想とする町医者の仕事はこんな感じです。これからもこの方針は変えずに続けて、みなさんの信頼にこたえられるように(でもがんばりすぎず)やっていきたいです。
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