クリニックを始めてもうすぐ30年になりますが、いまだに「整形」という言葉にしっくりきません。同じように考える人も多いようで、筋骨格系とか運動器系ということばにおきかえた方が良いという意見もあります。今回のテーマです。
1 見た目だけで判断してはいけない
望聞問切(ぼうぶんもんせつ)とは、望(見る)聞(聞く)問(問いかける)切(触ってみる)という意味で、むかしのお医者さんの診察のやり方をまとめたものです。顔色や舌のむくみを見たり、訴えを聞いたり、いろいろ質問したり、おなかや手足を触ったりで診たてをする時代が長く続きましたが、現代の医学は検査や診断装置で見えない部分の異常をみつけることができるようになりました。でも見た目だけで判断することからはなれてきた今の医学の中にも、まだまだ見た目に引きずられる部分が残っています。とくに目に触れやすい手足やせなかの相談ではその傾向が目立ちます。
2 外反母趾が悪いのか?
「外反母趾が痛いので何とかしてください!」という相談が多いのですが、足のおや指(やその周り)がなぜ痛くなるかと言えば骨・筋など何かにダメージがあるから痛むわけで、それをみつけて治せば痛みは無くなります。実際の診療で外反母趾の痛みの原因は千差万別です。強調したいのは痛みの原因を治すのがたいせつで、見た目の「外反母趾」を直すのではないことです。
外反母趾自体は長い時間をかけてしだいに形が変わったものです。はじまりは5歳くらいからと言われていて、靴の中で長いこと圧迫されることで生じていきます。例外的に極度の変形があるときには手術をして直すことがありますが、ほとんどの人では痛みが訴えなので、地味な治療(薬・履物のくふう・マッサージなど)で良くなります。
足に限らずからだの変形はその人の長い人生の軌跡を反映したものです。良くも悪くも木の年輪のようなものですから、元気に暮らせるように今からできるやりくりの方法をみつけることがだいじです。
3 ひざの痛みは変形からくるのか?
変形をどう扱うか?お医者さんでも微妙に考え方がちがいます。典型は変形性関節症によるひざの痛みです。私の場合は、多くの症例でビタミンD内服を行っていますが、これは変形関節症の痛みの原因が骨(軟骨下骨)にあると判断しているからです。でもお医者さんによってヒアルロン酸注射(関節の摩耗を避けるため)や痛み止めを処方したり、手術(半月板の損傷を修復するetc.)をすることもあります。X脚やO脚を直す矯正手術を行う病院もあります。
コロナで緊急事態宣言が出たあたりから骨性のひざの痛みが増えました。試みにビタミンDを内服してもらうとみんな症状が良くなりました。以前は筋肉性の痛みの人が多く、痛みの原因が急速に変化しておどろきました。現在は骨痛・筋痛ともに診ていますが、レントゲンだけにたよらず(変形にまどわされず)触診に基づいた治療を心がけているのは同じです。
4 脊椎の変形
「背骨が曲がっている」と人に言われた、自分で気がついた、検診で指摘されたという相談は多いです。変形を治したいと来院する方もいます。変形はあっても様子を見るだけでいい例が多く、痛みの原因が筋肉にある(疲労の蓄積や運動不足による)ことが大半です。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症では痛みが強いとき一時的に背骨が曲がることがありますが、症状が落ち着くと変形も消えていきます。
思春期にみられる特発性側弯症では、変形は進まないか進んでも目立たないぐらいで落ち着く場合が多いです。肩こりや腰痛がでるときも疲労や使い過ぎでおきているだけなので安心してください。ただし骨密度が低いと変形が進む恐れがあるのでタンパク質やカルシウムの豊富な食事をとり、日光浴でビタミンDを作ってくださいね。年配の方の側弯症でも同様なので、骨粗しょう症対策をしっかりと心がけてください。
5 見た目からはなれて考えてみる
見た目を考えて治療しなければいけない病気や故障もあることは承知しています。ただ日々のこまごました相談を受ける立場から見ると、見た目にとらわれて相談内容がきちんと整理できていない人が珍しくないと感じています。
- ほんとうに困っているのは何なのか・・・仕事や家事に支障がある?痛くて眠れない?それとも見た目が気になる?自分の相談事は何なのか整理してみよう
- 個人差は異常ではない・・・骨格や形には個性がありますが、それは異常ではありません
- かたちと機能は別・・・きちんと仕事・生活ができていているならどんな形でもそれは正常です
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