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論よりしょうこ

 (アーカイブ;2007年1月号より)

 

 最近はテレビを見る人が減ったということですが、それでも影響力にはおどろかされることがあります。○のもん○さんの番組でとりあげた健康食品は翌日のスーパーで売り切れになります。た○しの「本当は怖い~」をみて心配になって来たという患者さんはけっこう多くて、すごく症状は軽いのに心配そうな人の話を聴くと、「これってガン(あるいは脳梗塞)の症状ってことはないですか???」と聞かれて、びっくりすることがあります。

 

 たんなる腰痛だと思ってたのがじつはガンだったとか、肩こりだと思ってたのが髄膜炎だったとか、たくさん並べられると、たしかにこわいなあと思ってしまうのが人情です。いろんな情報が、あっという間に世の中に広がっていき、ひとりひとりの考え方に影響をおよぼします。すべてのことにしっかりとした自分の意見を持つことはむずかしいので、よく知らないことはどうしても人の意見にたよってしまうことになりがちです。

 

 でも、人の意見はいつも正しいとは限りません。良かれと思ってくれたアドバイスでも、ほんとうに正しいかはわかりません。たくさんある情報の中から、どうしたら、ほんとうに自分にとって役に立つものを選び取ることができるのでしょうか。テレビや新聞にのった話なら信用できる?それとも、近所の人の口コミ情報のほうが信用できるのでしょうか?

 

 わたしが仕事をしている医療の世界も、いっけん科学的に見えますが、じつはけっこう人間くさい世界です。そのなかでどうやったら正しい判断ができるのか、自分や家族の健康を守るために役立ちそうなヒントを少しお話したいと思います。

 

1 確率の世界

 

 年末ジャンボ買いました?確率的にいうと、くじを買うことは損です。夢は買えますが、サイフは軽くなります(でも買っちゃったけど)。

 

 医学の世界では、確率がものを言います。薬が効くかどうかは100人中何人の人に効くかで決まります。ひとりによく効いたが99人に効かないくすりより、60人に効いたが40人に効かないくすりのほうが効く可能性が高いということです。だから、健康食品やサプリメントの宣伝はよく吟味しないといけません。「すごく効いた」という喜びの声にうそはないかもしれませんが、すべての人に良く効くという保証はどこにもないのです。

 

 また、100パーセント効く治療が、この世には存在しないことも事実です。必ず効くかのような宣伝をみたら、あわてて飛びつかないようにしましょう。

 

2 新しいことに飛びつかない

 

 10年単位、いや1年単位でも、医学の常識は変わっていきます。それもコロッと変わることも。たとえば、リノール酸は20年前にはからだにいいのでどんどん食べたほうが良いという意見が一般的だったのに、いまではリノール酸のとりすぎはからだに悪いとされています。むかしは、心筋梗塞のあとは絶対安静が必要といわれていましたが、いまは早めに動かしたほうが回復が早いことがはっきりしました。今の皇太子殿下が赤ちゃんのころ、人工授乳が母乳よりすぐれているといわれて、赤ちゃんを粉ミルクで育てたお母さんが多かったのですが、いまは母乳栄養がだいじなことがわかっています(現在の赤ちゃんミルクもとても良くなっています)。

 

 今ではまちがっていたとわかっていることも、当時の一流の専門家がどうどうと主張していたことだったのですから、専門家といえど、必ず正しいことを話すとは限りません。逆に、時を経てますます信頼の度が増していくような経験則もあります。おばあちゃんの言い伝えが正しかったとか、むかしからの食生活がじつはからだにとてもいいといった報告です。

 

 だから、目新しいことだからといって、すぐには飛びつかない。古いというだけで、だめだと決め付けてはいけない。自分なりに物事を見通す目を養っていかなければならないわけです。

 

3 論より証拠

 

 それでは、どうしたら、何が正しくて何がまちがっているかを判断できるようになるのでしょうか。病気の治療で、どの方法を選ぶことが自分にとって正しいとわかるのでしょうか。

 

 そのカギとなるのが、「論より証拠」です。人の話で納得するより、自分の経験したことから判断して、自分の考えを決めていくということです。もちろん、複雑な病気やけがの診断を自分ひとりでできるわけではありませんから、お医者さんなどの専門家にたよることは必要です。

 

 しかし、治療の結果は自分でわかります。いくら立派な説明を聞いても、治療の結果がさっぱりということであれば、どこかがおかしいか、あるいは何か別の理由があるのかもしれません。質問は遠慮なくしたほうがいいのです。

 

 世間の評判もある程度は本当のことかもしれませんが、やはり、直接自分の目で見て、話を聴くことがだいじだと思います。そして自分で判断するのです

 

 ※当時に比べると、いまは何事にもネット検索の比率が大きくなっています。ネット検索についても、あらためてどこかでお話しするつもりです。