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手・腕のセルフケア

 オリジナルはこんな感じです。毎月20日前後よりクリニックで配布しています。

 

 

 先日クリニックのスタッフに「小学生の時には学級通信をガリ版で作っていた」と話したら、「ガリ版って何ですか?」と聞かれました。デジタルネイティブ世代にとって、ガリ版は古代の道具のようです。楽になった世の中ですが、手や腕の故障は逆に増えている気がします。今回は上肢のセルフケアのお話です。

 

1 箱の前で8時間はつらい

 

 昔の人に、「あなたの遠い未来のご子孫は、一日中四角い箱の前に座り、朝から晩まで木の板を指で叩き鳴らして暮らしています」と話したら、たぶん信じてもらえないでしょう。食べ物を得たりお金を稼ぐためには、文字通り手に汗流して働くことがあたりまえでした。原始時代からあなたの祖父祖母の世代まで、ほとんどの人はそうやって暮らしていたのです。だから、体の仕組みも汗水たらしながら動き続けることができるように設計されています。今よりずっと生活は厳しかったので、過労や栄養不足で病気になることが多く、寿命は縄文時代で30代、昭和の初めでも60代がやっとでした。

 

 今のほうがずっと便利になり、暮らしは楽になったけれど、腕から指にかけて細かい反復作業をすることが極めて多くなりました。とくにパソコン作業では長時間指先を動かし続けることで手や腕の筋肉に疲労が蓄積しやすくなり、故障の大きな原因になっています。

 

2 痛みは遠くで感じる

 

 気が付かないような小さな故障も、チリが積もるように増えていくと、ある日どこかが痛い、腫れた、むくむといった症状になります。

 

 ほとんどの場合で痛みはオリジナルの部位よりも遠くに飛びます。たとえば肩のつけ根の故障では痛みが腕~手に、前腕の故障では手首~指先に飛びます。

 

 だから痛いところだけでなく、もっと体に近いところまであちこち触ってみましょう。押して痛むところがみつかったらそこが原因部位かもしれません。

 

3 か弱い筋肉にやさしく

 

 もともと前腕から手のひらまでの筋肉は細かい作業をすることに長けていますが、疲れやすく持続的な力仕事には向いていません。力仕事には肩の筋肉が向いています。こういった筋肉の特徴を生かして体を動かすと故障しにくくなります。たとえばぞうきんを絞ったり、固いビンのふたを開けるとき(図)、手首を動かそうとせずに肩の力で手を動かすと楽で故障知らずになります。

 

 また、腕は2,3キロの重さがありますから、宙に浮かして力を入れながら作業するよりも、クッションのような支えに乗せて重さを取り払ったほうが楽に動かせます。こうすることで、キーボード操作など上肢を伸ばしたまま細かな動きをする作業をするときに疲れにくくなるでしょう。

 

図;矢印のようにてくびをひねると痛めやすいです。手首を動かさず、肩から腕全体を動かしましょう

 

 

4 マッサージとストレッチをこまめに

 

 手・腕の故障の大半は筋肉の疲労が原因でおきます。筋肉は前腕と手にあって、手首と指にはありません。だからマッサージは手と前腕にします。手のひらだけでなく手の甲(骨と骨のすきま)を反対側の手の指先で押します。親指だけでなくほかの指も使って、ゆっくりとリズミカルにやってください。

 

 押して痛いところはもちろん、こった感じがするところもマッサージしてください。1回数分でいいので、一日6-7回行うとベストです。

 

 

 前腕の筋肉のストレッチも効果的です。反対側の手で手のひらをつかみ、手の甲側を伸ばし、次に手のひら側を伸ばします。筋が伸びる感じがして、かすかに痛いくらいまで伸ばします。これも一日数回やると効果的です。

 

 すぐには効果を感じないかもしれませんが、毎日続けると痛みやこわばりが軽くなるのを実感できるはずです。